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『どんなコンピュータが欲しいか?』

WR0019 航行めがね:NaviGlasses の概念−究極の未来型パーソナルコミュニケ−タとその世界

(1999/3/26)

マッキンテリジェンス 代表:大座畑重光

 Amazon.co.jpアソシエイト

筆者は「NaviGlasses(航行めがね、あるいはナビグラス)」と名付けた未来型パーソナルコミュニケ−タ(メタパートナー、装着型パートナー)とその世界の概念構築を行っている。

このプロジェクトの目標は現実世界を対象とした新しい計算・通信の世界を創ることで、実現したい新しい機能は大きく2つある。

ひとつは、自分が現在見ている視野画像を第三者のNaviGlassesに送信しレンズ上に表示すること。すなわち一個人の視野の画像をできる限り正確に獲得し、それを送信することで複数人で共有できるようにするということ。個人の視野間通信をいかに実現するか、そのためのメカニズムを探ること。

それからもうひとつはこれがこのプロジェクトで本質的なものだが、反応性のある現実世界を創ること。そのためにNaviGlasses-TROOPの計算モデルを構築するということ。これによってたとえば、ディスプレイ上のアイコン等のオブジェクトをクリックするのと同様に、NaviGlassesレンズを通して目に映る実世界のもの(オブジェクト(生物、無生物))をクリックして種々の有用な情報を表示したりインタラクションをしたり、要するに反応をさせたいわけである。

このことをいかに実現するか。

まず、実世界の(すべての)ものにTROOP(実世界オブジェクト間コミュニケーションのための開放型プロセッサ)というものを添付するという社会的な基盤を作らねばならない。

その基盤のもとでそれら大規模数のTROOPどうしのやりとり(協調コミュニケーション)により、NaviGlassesユーザがグローバルな位置(GP:NaviGlassesフレームのGPS機能により決定)と方向(d:NaviGlassesレンズによるユーザの視線追跡機能により決定)を指定することで、GPとdで決まる視点とする視覚情報(画像)を個人のNaviGlassesレンズ上に現実世界に近い人工の(無矛盾の)視野画像を提供するとともに種々の知識など有用なデータや情報を与え、GPとdの変化に応じてその生成画像は実時間で更新されるように構想している。

TROOPは実世界のもの(オブジェクト)に従属した図面などのデータや知識を所有し、さらに位置と時間、すなわち時空情報をもつ。TROOPどうしのやりとりにイメージェント(imagent : imageとagentを合成した造語)と名付けた高度なモバイルエージェント技術を開発しなければならない。

 前者、すなわち個人の視野間通信の開拓だけならば、CMU(カーネギーメロン大)のモラベック博士(Hans Moravec) のMagic Glassesの機構だけでもほぼ実現可能だろうと思う。すなわち個人の間だけの通信だけですむことである。しかし後者も実現するとなれば、その世界は飛躍的に大きなものになり、人間のすべての行動空間を飛躍的に拡大する。このことは人間の生涯における種々の活動形態を著しく変化させることになるだろう。

コンピュータサイエンス(計算機科学)の分野におけるオリジナルな研究、発明・発見はこれまでほとんどが欧米でなされてきた。産学戦略的研究フォーラム(SSR)(主催:(財)情報科学国際交流財団)は、ソフトウェア分野において今後特に重要と思われる4分野に関して、産学協同の研究グループをつくっている。

そのうちのひとつに「次世代インタラクティブ(対話型)コンピューティング」グループがあり、その中で、現実世界と仮想世界の融合概念や実世界指向インタフェース、実世界指向コンピューティングなどいわゆる「実世界指向」を大きく取り上げている。これは欧米にさきがける研究対象として認知され、定着してきたということである。1988年に開始したNaviGlasses-TROOPの概念研究が新しいものかどうかが気になっていたが、諸外国で行われている研究の動向をみる限りでは、これまでのところ、実世界のもの(Real Objects)を計算モデルの対象に取り入れたこころみとしては、この概念がもっとも古いものかもしれない。

かって、このような研究対象に対して以下のように記述したことがある。ここに記されている「ROC」という用語は「実世界指向」よりもだいぶ前で、当時既にこのような研究対象を描いていた。

「・・・(中略)・・・これまでのコンピュータによる情報のアクセスの対象を大幅に拡張し、人間を取り巻くコンピューティングを多様化させ、コンピュータにフレンドリィでない多くの人々にコンピュータのパワーを解放し違和感を消滅させようとするものである。これは人間へのサポートをより強力にする。これまでのコンピュータはコンピ ュータディスプレイ上に表示されたオブジェクトや内部に表現されたデ−タやオブジェクトにしかアクセスできなかった。したがって、航行めがねはこれまでのコンピュータの計算形態では取り扱うことができなかったことの一部を可能にするものである。これは我々が住む外界に対するコンピューティングの可能性を開く。このような、自然の中に存在する、生物や人造物に対する(より明確にはそれら個々のTROOPを通した)コンピューティングを仮に“現実のオブジェクトに関するコンピューティングROC(Real Object Computing)”と名付けておく。」
(大座畑重光:航行めがね:RARのための究極のデジタル化をめざして,人工知能学会FAI,HICG,KBS合同研究会,SIG-F/H/K- 9001-7 (12/6), pp.57-66 (1990.12). より)

NaviGlassesの概念、ROCの概念の提唱は、Xerox PARC(米国ゼロックス社パロアルト研究センター)のユビキタス・コンピューティングの研究(だいぶ異なる)よりも早かったと思う。「実世界指向」の研究対象がようやく先端技術研究分野で認知されたことはたいへんうれしいことである。この日本発の研究・開発がこれからも活発に研究され、大きな研究領域のひとつに成長していくことを念じている。

(1999/3/20原稿作成)


マッキンテリジェンス 代表:大座畑重光

筆者プロフィール:
著書に「OSハンドブック」(漢字Talk7の部分の分担執筆,ソフト・リサーチ・センタ ー,1994),
訳書にC.ケーラ−著、大座畑重光訳「HyperCard−その偉大なパワー」(トッパン, 1989)、アリス・バークス、アーサー・バークス共著、大座畑重光監訳、マッカーズ共訳:「誰がコンピュータを発明したか」、工業調査(1998.7)がある。情報処理 学会、日本ソフトウェア科学会、人工知能学会各会員。
e-mail:KYD00304@nifty.ne.jp